アートがもたらす、ポップな暮らし(後編)

人もグリーンもアートも居心地のいい、
日の当たるリビング

自宅の中で、特に気に入っている場所があれば教えてください。

内見した際に一目惚れしたリビングです。広くはないのですが日当たりが良く、開放感があって気に入っています。この家に越してきてから育てているグリーンも急激に成長しました。ソファはもともと2人掛けの小さなものを使っていたのですが、一番いる場所だからこそと思い切って、今年はじめに大きなサイズのものを購入。L字が最高すぎて、本当に買って良かったなと思います。

出窓に飾っている作品たちも素敵ですね。

一番のお気に入りはロダンの『接吻』のレプリカ。骨董屋で購入したもので、5千円で売っていました。お店の人には「よくこんなの買うね」と言われたのですが、私は即買いでしたね(笑)。

アート作品をインテリアとしてたくさん飾る場合、まとめるのが難しいと思うのですが、どんなことを意識して作品を配置していますか?

その作品が一番生き生きしそうな場所を無意識のうちに考えている気がします。例えば、ロダンの『接吻』のレプリカは、なんとなく日当たりのいい窓際に置くのが素敵だなと思い、ここに落ち着きましたね。

ギャラリーでの経験が自宅作りで活かされていることはありますか?

壁のアートは自分で額装しています。今は賃貸でも絵を飾れるいろんなグッズが販売されていて、我が家では特殊な画びょうと貼ってはがせる粘着剤で跡が残らないように設置。ソファの背面の絵は、新進気鋭のアーティスト・BIENのドローイング。購入した作品の額装を考える時間も楽しいひとときです。

ふとした瞬間に元気をもらえる、
アートのある暮らし

アートを家に飾り始めたのはいつ頃からですか?

実家では母が好きな五木田智央さんのカレンダーを飾っていたり、小さな頃からアートは身近な存在でした。中学校の頃には、宇田川町にあったタワーレコード渋谷店のタワーブックスに通い詰めて、知らない海外のアーティストさんの作品集を買ったり、『relax』や『STUDIO VOICE』などのカルチャー誌を隅から隅まで読んだりして情報収集していましたね。

部屋のアートは、伊勢さんにどんな作用をもたらしてくれますか?

視界に入るだけで元気をもらえる存在です。作品を見ていると、買ったときのことを思い出したり。私は、知り合いの作家さんから作品を買わせてもらうことも多いので、ふとしたときにその人のことを考えたりして、家にいる時間が賑やかになります。

普段アートに慣れ親しんでいない人にもおすすめしたい、アートを飾る方法はありますか?

今は、手軽に買える作品もたくさんあるので、まずは気軽に買ってみること。買うとやっぱり飾ろうと思えるし、飾ってみたら必ず暮らしが豊かになるはずです。また、額装はどうしようと考えるのも楽しみのひとつですね。

もう少し身近なアイディアで言えば、壁にポスターを貼るだけでも楽しいと思います。我が家でもキッチンとの仕切り壁には、〈アホネン&ランバーグ〉の展示で配っていたポスターをマスキングテープで貼っています。

また、フライヤーやチラシを貼ってみるのもおすすめです。我が家にもキッチンの一角に何枚か貼っています。『$6 OFF』と書いてある紙はニューヨークで拾ったタクシー会社のクーポンです(笑)。

デジタルでアートを見ることと、生でアートと向き合うことにはどんな違いがありますか?

作品は生で見る方が記憶に残ります。見られる角度とか、見られる距離とか、情報量が圧倒的に現物の方が多いです。私が好きなのは作品を見に行くまでの過程。道中の思い出やその作品があった場所の雰囲気、匂いなど、五感で体感したことが加味されて、作品がさらに魅力的に見えたりします。

以前、ニューヨークのイサム・ノグチミュージアムに行ったのですが、それがいわゆるスラム街のような場所にあって。彼が生まれ育った場所に建っているのですが、駅から30分くらい歩く場所にあり、途中怖い映画に出てきそうな人たちに絡まれながらようやく辿り着きました。着いたときの喜びは半端なくて、一生忘れませんね(笑)。それもノグチ先生の意図なのだと思います。

アートの魅力とはどのようなところにあると思いますか?

アートは、自分の知識が増えることで新たな発見が生まれるもの。例えば、小さな頃に自分が薄っぺらい気持ちで眺めていたピカソなど、著名人の作品は、知識やたくさんの絵に触れてから改めて見ることでがらりと捉え方が変わります。それはいまだにあって、年々アートは楽しいです。もともと美術系の学校に通っていたのですが、最近は改めて美術史を勉強し始めました。

特に思い出のある作品があれば教えてください。

現代美術作家の加賀美健さんの作品です。2015年にロンドンで開催されたアートフェアで、加賀美さんが何百人もの人を即興で描くパフォーマンスをされていたとき、並んで描いてもらいました。これは宝物です。家にあるアートはどれも思い入れのある作品ばかり。だから、いつどこで買ったかというのは全て思い出すことができます。そういうものを家で眺めながら、いろんなことに思いを巡らせています。

自分が好きなアートを思う存分飾れる自宅は、自分や大切な人とのコミュニケーションを育める絶好の場所だと教えてくれた伊勢さん。アートは、自分の感性をアップデートしてくれる存在であり、大切な人と言葉にできない感性を共有する手助けにもなってくれるはず。なんだか気になってしまう作品があるのなら、それは自分の心に何か作用している証拠。そんな作品をまずは自宅に招いてみてはいかがでしょうか。

何十軒と内覧してたどり着いた、
ちょっとおもしろい物件

この物件を選んだ理由について教えてください。

大きな出窓がついていて日当たりが良く、部屋の抜け感や気の良さそうな雰囲気、カウンターキッチンであることも決め手になりました。部屋の備え付けの建具には額縁のような枠がついていたり、部屋の広さのわりにキッチンが立派でありながら、お風呂はユニットバスだったり。ちょっと変わったおもしろい物件です。都心部とは思えないほど静かな場所にあって、仕事とプライベートをきちんと切り替えられるところも満足しています。ここは、何十軒と内見して、ようやく出会った物件。3年前、内覧したその日に即決しました。

自宅作りのテーマやマイルールを教えてください。

好きなものしか置かない、無駄なものは置かないようにしています。家具は極力シンプルで良いものを選びつつ、デコレーションは少しポップになるように意識。家に置いているアートはインパクト強めのものが多いですね。ものにも愛情を込めて丁寧に接することを大切にしています。

アート好きが考える、
コンパクトな住まいでの家具選び

家具を選ぶ基準を教えてください。

アートが映えるように家具はシンプルに、サイズ感と素材感を重視して選びました。ダイニングテーブルは、ガラスのものを。ガラスは圧迫感が出にくく、シミもつかず、お手入れも楽な素材。ネットで見つけたノーブランドのもので、不動産屋から図面をもらって、細かくサイズを割り出してから購入しました。椅子は、〈コンランショップ〉で購入したスタッキングができるものと、昔〈イケア〉で購入した、ロープ座面のスツールを愛用しています。

お気に入りの家具はありますか?

友人に作ってもらった合板とステンレス、アクリル版を組み合わせてオーダーした〈saiku〉の棚です。今年の夏に届きました。人生初のオーダー家具で、サイズ感や使いやすさも気に入っています。棚上の本は、ローレンス・ウェイナーという現代アーティストの作品集と、ミヒャエル・ボレマンスの油彩の本。本の表紙はインテリアのアクセントになって、入れ替えるだけで気分が結構変わります。

伊勢さん宅には、奥行きの浅い棚が多いですね。

コンパクトな住まいなので、棚はできるだけ奥行きのないものを選んでいます。アート作品を並べる際にも浅い棚は優秀。ついつい集めちゃう割になかなか上手く並べられない小ぶりなアートも、なんとなく並べるだけで上手くまとまります。我が家では、ダイニングテーブル横にある、奥行き15cmほどの棚に小さなアート作品を集合させています。ここには、ぬいぐるみ作家の片岡メリヤスさんの作品や、母からもらった幼少期の頃の写真も飾っています。

自宅ではどんなアートを飾っていますか?

他人から見ればガラクタのようなものからギャラリーで購入したものまで様々で、自分が好きなものを純粋に飾っています。すごくシンプルで、ただかっこいいというものよりは、ちょっと癖のあるものに惹かれる傾向がありますね。模様替えは頻繁にしていて、そのときどきで今見たいものを考えながら、その都度よく見える場所に並べ変えています。〈VOILLD〉で展示する作品と、自宅で飾っている作品に大きな差はないのですが、同じ作家さんの作品でも自宅ではよりマニアックで、尖っているものをチョイスしている気がします。

ソファ横にあるライトも素敵ですね!

コカコーラとペプシの缶を組み合わせた柱が良いですよね(笑)。〈magma〉という主に立体作品を手がけるアーティストの作品です。廃材をコラージュしてアートピースに仕立てるアーティストユニット。実際にライトもつくので普段から使っています。本棚上に置いているおもちゃを組み合わせたようなライトも、同じく〈magma〉の作品ですね。

家でのオフ時間は、どのように過ごしていますか?

最近購入したプロジェクターで映画やドラマを観たりしています。買おう買おうと思いつつ、ずっと後回しにしていたプロジェクター。買ったら生活がガラリと変わりました。スペックをかなり比較して値段的にも納得できた〈WiMiUS〉のものを購入。Netflixなどの動画メディアやスピーカーも内蔵されていて、昼でもしっかり画面が見えます。コンパクトなサイズ感で、いろんな場所に気軽に映像を投影できて便利です。部屋のインテリアにもすんなり溶け込むスタイリッシュなデザインも気に入っています。

広々キッチンで、趣味の料理を楽しむ

部屋の広さからは想像できないほど、キッチンがとても立派ですね!

コンロは三口、吊り戸棚もとても豊富です。料理はもともと好きなのですが、この物件に引っ越してきてからさらにキッチンに立つ時間が増えました。器も収納できるスペースがたくさんあるので、ついつい買っちゃいます。吊り戸棚のなかには、自作で仕切りを設けて、取り出しやすく工夫しています。

キッチンのインテリアで心がけていることはありますか?

キッチンはできるだけすっきりしようと思いつつ、少しだけ楽しい要素も。電子レンジの側面には、世界のお土産マグネットを集合。パエリアはバルセロナで、ロブスターはボストン、相撲のマグネットは東京タワーでゲット。「ちょっとお金おろしてきます」のメモは、現代美術作家の加賀美健さんからもらったもの。会ったときにちょうど私がお金を持っていなくて、おろして帰ってきたらこれが。思い出に飾っています(笑)。

器もたくさんありますね!

器は日本の作家さんのものがほとんどです。中目黒の〈SML〉はよく行きますね。器のセレクトも素敵で、店員さんも優しいので、ついついたくさん買っちゃいます。買ってきたお惣菜を家で食べるときも、素敵な器に盛るだけで格段に気分が上がりますよね。器は地方で購入することも多く、旅の思い出にもなっています。

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