雄大な自然を
住まいに取り入れる
ライフスタイルが変化したことで、家づくりにも変化はありましたか?
動物や自然を興味の対象にすると、インテリアやデザインなど、人為的なものへの興味は薄れていくというか、自然の産物の無垢さやスケールには敵わない気がして。好きなものや環境に囲まれている現状だけで今は十分満足で、スタイルやデザインのこだわりは昔に比べたらなくなりました。デッドスペースに作った部屋の奥の作業エリアには、好きなものを厳選して並べています。
今はどんなものが増えましたか?
好きな作家さんの作品や写真、拾った石、枝葉などが増えていきます。山を歩くことが増えて、そこで出会う自然の造形や模様の美しさに改めて気付いてからは、これを超えるものなんて人間には作れるのだろうかと感じるようになりました。とはいえ、“自然への敬意”、“畏怖の念”が感じられる作品にはやはり興味がありますね。
ダイニングの上に吊るしているモビールはYURI MIYATAさんの「森の落としもの」という作品です。森の中で浮かんで揺れている枝葉をモチーフにしています。
〈HOW TO WRAP_〉や〈Shizu Designs〉の石をモチーフにした作品もお気に入りです。
〈MOEBE〉のフレームに入れて飾っているのは、鈴木優香さんが手掛ける「MOUNTAIN COLLECTOR」のハンカチ。これは彼女が2018年にネパールのエベレスト街道を歩いたときに撮影した写真から仕立たてたもの。標高5,400mのゴーキョピークの景色を楽しめます。
猫も人も暮らしやすい家づくり
愛猫・あおくんとの出会いを教えてください。
6年前、同じマンションに住む友人が、寒い夜に近所の公園で保護したのが、生後3ヶ月だったあお。帰ろうと思ったらついてきちゃって、でも友人は先住猫がいるから飼えなくて。これも何かの縁だろうと引き取ることにしました。
あおくん、もふもふでかわいいですね!
あおはとにかく食いしん坊。自動給餌器からご飯が出てくる前、わずかに聞こえる準備の動作音に反応して、すぐ駆けつけてきます。特に食欲が増す冬場は、機械にアタックしてコロッと出てくるラッキーカリカリを狙っているので、椅子と本で倒れないようにガードしています(笑)。
猫のいる家におすすめな家具はありますか?
〈MOEBE〉のストレージボックスです。我が家では、猫のトイレシートやごはんなど、猫の日用品の収納に使っています。スタッキングもできて、縦置きすれば簡易テーブルとしても使える優れもの。上に座布団を敷いて、猫のくつろぎスペースにするのも良いですね。猫専用の家具は、いざ家に置いてみたら猫が使わないこともあるので、我が家では極力猫も人間も一緒に使えるものを選ぶようにしています。
これから、あおくんとの暮らしで挑戦したいことはありますか?
Instagramを見ていたら、飼い主と山を散歩している猫を見て、うちもいつか一緒に行けたらいいなと夢見ています。あおはなかなか臆病な性格なので難しそうですが(笑)。なにか災害などがあったときのためにもハーネスをつける練習はしているものの、なかなかつけさせてくれません…。
アウトドアの山と、
インドアの猫をつなげる
休日はどのように過ごしていますか?
趣味の山歩きに出かけることが多いです。今年7月にはスイスの山へ出かけたのですが最高でした。マッターホルンの半分ぐらいまで登って、その近辺を散策したり、アイガーにいったり、良い思い出になりました。
山歩きはどんなきっかけで始めたのですか?
2020年、コロナ禍を機に始めました。もともと友人と富士山に登ろうと計画していたのですが、それが台風で中止になってしまい、そのままコロナ禍に突入。せっかく道具は揃っているのだからと、まずは高尾山にソロで登ってみたところ、それがとても楽しくて。朝6時半から登り始めて、頂上で朝ごはんを食べて、温泉に入って。家に帰ってきても、まだ昼12時ぐらい。その日がとても良い1日だったんです。それから、山登りが好きになって、毎週のようにどこかへ出かけるようになりました。
家で過ごす好きな時間はいつ、どんなときですか?
朝、あおが布団に入ってきて一緒に寝ているときです。ただ、トイレに行きたいときなど、起きないといけないときに限って、腕の中にきて気持ちよさそうに寝てるんですよね(笑)。猫はこちらの都合には合わせてはくれないので、いつも翻弄されています。
滝沢さんの暮らしの中心には、「山」と「猫」がありますね。
そうですね。2021年には〈山と猫〉というブランドを立ち上げました。アウトドアとインドア、2つの異なる要素をライフスタイルのテーマの一つとして提案できないか、“山にいながら愛猫を想う、家にいながら山を想う”、そんなきっかけになるものを提案したいと始めました。「山と猫」では、猫が使うものや山の本気道具を扱うのではなく、山や猫が好きな人たちが作るプロダクトや作品を扱っています。山に登る人も、登らない人も。猫を飼っている人も、そうじゃない人も。生活の中に山と猫の存在を身近に感じてもらえたらと思います。
家づくりはプロダクトやスタイルよりも、“暮らし方”にフォーカスしたいと教えてくれた滝沢さん。今の自分が心地いい暮らしとはなにか、そう突き詰めることで自分の理想の働き方や生き方など、大切にしたい芯の部分が見えてくるはずです。
前編では、この家に引っ越した経緯やリノベーションの話、リビングダイニング・キッチン・洗面所の空間づくりについてなど、詳しくご紹介しています。ぜひ前後編合わせてお楽しみください。
憧れのヴィンテージマンションを、
快適にアップデート
今の物件に行き着いた経緯を教えてください。
ずっと古くて雰囲気のある物件を探していました。もともとこのマンションは友人が住んでいて、いいなと思っていて。空きが出たらすぐに内見できるように、近くのマンションに住んでチャンスを伺っていました。どの住戸も同じ造りで、横に長く、窓が多く、開口部が広い。角部屋ではない限り、あまり出会えない個性的な造りに可能性を感じていました。また、収納部が外にせり出しているので、その分居住スペースを広く使えることも理想的だったり、緑豊かな中庭の景色が高台にあって見晴らしが良いことも決め手に。実はこのマンション内でも3、4軒内見していて(笑)その中でもリフォームがされていなかった今の物件を購入しました。
リノベーションはどのような業者に依頼しましたか?
ワークショップ形式で住まい手も家づくりに参加できる〈ハンディハウスプロジェクト〉に依頼しました。間取りのプランニングから素材やパーツ選びをはじめ、床を張ったり、壁を塗ったりする作業も含め、とても楽しかったです。
家づくりはどのように進めていきましたか?
薄暗かったので、壁は真っ白に塗り、窓からの光が全体に回るように2LDK の間取りを1LDKにリノベーションしました。あまりセオリーに捉われすぎずにアイディアを出していきましたね。例えば、当時はまだ当たり前ではなかった寝室の内窓は「ここに窓があったらきっと明るくなるだろう」と自由に発想したもの。寝室なので下半分は磨りガラスにしています。あと、我が家には巾木がなかったり、窓枠は黒で塗っていたり、内装の装飾は極力シンプルになるよう工夫しました。
寝室のドア、重厚感があって素敵ですね。
これは1920年代のイギリスのアンティーク。番号が書いてあるイギリスの玄関ドアが好きで、長い間探していました。家に入れてみたら、想像以上に大きかったです(笑)。ガラスの部分はもともと入っていたステンドグラスを取り外して、隣の窓と同じ鉄線入りのガラスへ入れ替えています。
機能的で美しい、暮らしの道具
家の中で一番長く時間を過ごすのはどこですか?
リビングダイニングですね。ダイニングテーブルに座っていると、テーブルの上か足元か、猫が大体近くにいるので、一緒にゆっくりしています。ダイニングテーブルは大好きなデザイナー、ジャン・プルーヴェがデザインしたヴィトラ社のテーブルで、この家に引っ越したときからの愛用品。天板のスペアもあるのでまだまだ使い続ける予定です。
テーブル上のライトは、シェードを好きな角度に調整できる猿山修さんデザインの「自在照明」。椅子はイームズチェアを合わせています。
家具など、暮らしの道具はどんなものが好きですか?
装飾的にデザインされたものよりも、機能的に作られていて、それが美しいというのが理想的だと思っています。例えば、〈Russell Pinch〉の木製スツール。折り畳んで壁にかけることもできるデザインで、アーツアンドクラフトがルーツにある、イギリスらしいクラフトマンシップを感じます。用の美を感じる佇まいが良いなと思います。
薄暗かった水回りも
明るく清潔感ある空間に
リノベーション前、特に印象が暗かったキッチンと洗面所。今はどんな空間ですか?
キッチン
キッチンは光がたっぷり差し込むように窓辺に移動し、〈IKEA〉で購入したキッチン台を導入。コンロ上に取り付けた〈MOEBE〉のセラミックペンダントランプは、シェードがコードに固定されていないため、光を落とす向きを調整できるという優れもの。また、食器類を収納している〈Tse&Tse associees〉のインディアンキッチンラックは、見た目もよく、使いやすくてお気に入りです。
洗面所
白とシルバーで統一することで、明るく、清潔感のある印象に。〈IKEA〉のシンクをベースに、タイルを貼ったり、工業用の取手を取りつけるなどして工夫しました。メガネや香水を置いている白いウォールシェルフも〈IKEA〉。鏡はフレームのないシンプルなデザインが気に入った〈MOEBE〉のものを取り入れました。
シンプルだけど味わい深い、滝沢さんの住まいづくり。後編では、滝沢さんが今思うインテリアの考え方や好きなもの、愛猫・あおくんとの暮らしや休日の過ごし方、2021年に立ち上げた自身のブランド〈山と猫〉についてもご紹介します。ぜひお楽しみに!