大好きな椅子と服と、ミーアキャットとの暮らし
【田中遥さんのコンパクトライフ 後編】

家具にのめり込むきっかけは、
名作チェアだった

田中さんの家には、いろんな場所に椅子が置いてありますね。

これでも減らした方なのですが(笑)、2人暮らしの我が家には10脚の椅子があります。椅子なので、ギアはギアなのですが、僕は空間のインテリア性を高めてくれるありがたい存在だと捉えています。

特にお気に入りの椅子をいくつか教えてください。

思い入れとしてはピエール・ガーリッシュの「チューリップチェア」が一番でしょうか。若い頃は今より稼ぎが少なく、家具は好きでしたが、なかなか手を出せずにいました…。そんな当時、給料1ヶ月分をつぎ込んで思い切って手に入れたのが、このチューリップチェア。家具にのめり込む入り口になったアイテムなので、今でも思い入れは強いです。

あとは、ポストモダン期のデザイナー、フィリップ・スタルクのハイスツールと、〈COMME des GARÇONS〉と〈アアルト〉のコラボベンチもお気に入り。家具というよりはアートを手に入れたような感覚です。

はじめての名作家具、田中さんならどんなものをおすすめしますか?

コンパクトライフを楽しむ方であれば、ソファの代わりに、良いラウンジチェアを1脚買ってみることをおすすめします。まさに我が家にあるハリー・ベルトイアの「ダイヤモンドチェア」のような。ソファは、部屋をなるべく広く使いたいコンパクトな住まいにはあまり向かないと思いますし、良いものを買おうとするとどうしても値が張るので、結局妥協したものを選んでしまいがち。ですが、ラウンジチェアであれば、同じ予算でも良いものが手に入るだろうし、正しい知識でデザイナー・年代を抑えておけば、必ずこれから価値も上がります。

良い家具は迎え入れてみることで、わかる良さがたくさんあると思います。やっぱり造形が美しいものが家のなかにひとつあるだけで、目が癒されるし、家の中がグッと締まりますよ。

わからないことばかりだから面白い
ミーアキャットとの暮らし

休日はどのように過ごすことが多いですか?

休日は基本的に家にいることが多く、ミーアキャットのお世話をしていたら1日があっという間に終わります。一緒にソファで昼寝をする時間は何にも変え難い幸せな時間です。仕事中もちょこんと膝の上にいたり、ときには近くの公園を一緒に散歩することもあります。

ミーアキャットを飼うことに決めた理由は?

僕の実家では犬、猫、鳥など、動物と一緒に暮らすことが当たり前でした。どうせなら飼ったことがない動物と暮らしてみたいという気持ちがあって、妻といろいろ調べた結果、ミーアキャットが面白そうだとなりました。

育てるのは難しいですか?

ペット化されている動物ではないので、飼育はとても難しいです(笑)。でも、その分発見だらけで面白い。一般的にはキャットフードを食べると言われていますが、我が家の2匹はあまり好きではなく、野菜やお肉、魚、エビ、ホタテなども食べています。僕より食費がかかっているかもしれません(笑)。あと、トイレを覚えられないのはなかなか大変で、頻繁にシャワーに入れています。

ミーアキャットはどんな性格ですか?

ミーアキャットは、もともと群れで生きる生き物。そのため、一緒にいることが当たり前という感覚で、いつも僕と妻にべったりです。2匹飼っているのですが、それぞれ性格は違います。タウ(1才・メス)は人が好きで温厚。環境の変化にも柔軟なタイプ。一方、マルム(2才・オス)は家族以外の人は触れることが難しく、神経質なタイプ。より野生の血が濃い気がします。でも、マルムの方が断然甘えん坊なんですよ。

ケージはどんなものを使っていますか?

もともと大型犬用に販売されていたものをリサイズして使っています。普段は放し飼いですが、やむを得ずケージに入れなきゃいけないシーンでも快適に過ごせるように大きめです。

隠すものはとことん隠して、
好きなものをより楽しめる空間に

どこを見てもすっきり整っている田中さん宅。生活感を感じないのですが、なにか心がけていることはありますか?

ものは極力増やさないことと、生活用品はすべて収納扉の中にしまうことを徹底しています。家具を特に楽しみたいリビングダイニングには、できるだけ収納家具や収納容器を置かないことも意識。『家』という空間の象徴でもある収納用品をなくすことで、ギャラリーとまではいきませんが、生活感が薄れると思います。とは言いつつも、リビングにはひとつだけ収納家具があって。テレビ台でもある「USMハラー」。機能的で、かつデザイン性も高く、これは非常にお気に入りです。

あと、リビングダイニングの一部の窓は、カーテンレールを取り外しているのも、家らしくないひと工夫かもしれません。カーテンやブラインドの代わりにすりガラスのシートを貼っています。

夫婦ともにファッション関係のお仕事をされていますよね。服などの収納はどのように工夫していますか?

服をはじめ、ファッションアイテムは妻も僕もどうしても多いので、丸々1部屋衣装部屋にしています。我が家は玄関に靴箱がないので、靴も一緒の部屋に収納。クローゼットのなかはシャツとパンツ、衣装ケースにはインナー類をしまっています。服は基本的に色ごとに並べることを意識。見た目も整いますし、選ぶときもストレスなくコーディネートを考えられます。

次住む家は天井・壁・床、すべて真っ白やコンクリートなど、よりインテリアが映える空間で、さらに自前の家具の可能性を探ってみたいと教えてくれた田中遥さん。名作家具はアートと同じように、暮らしに新たな気づきや豊かさを与えてくれる存在。まだ迎えたことがないという方は、ぜひ一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

前編では、この住まいを選んだ決め手や徹底された家づくりのテーマ、偏愛する家具の話についてなどお伺いしています。ぜひ前後編合わせてお楽しみください。

2年半前、アメリカンライフを提案する
デザイナーズ物件へ

今の住まいの決め手は何でしたか?

ある程度の広さと内装の完成度が決め手になりました。ここはアメリカの都市近郊の家をイメージして設計された集合住宅で、植栽は〈SOLSO FARM〉が担当。建具や照明のスイッチなど、内装の細部にまでこだわりがあって、植栽は単なるデコレーションではなく、最低限守るべき距離感などの機能面も考慮されています。

改めて、今の家に引っ越して良かったなと思うことは何ですか?

静かでゆったりとした時間が流れること。都心から離れたことで、自然と夜飲みに行くことも減って、家族との時間をより大切に過ごせるようになりました。『都心に住まなければならない』という固定概念もなくなり、これからの物件選びの選択肢を広げられたのも良かったです。

空間づくりは日本人と相性のいい、
フレンチミッドセンチュリーをベースに

空間づくりのテーマを教えてください。

フレンチミッドセンチュリーをベースに、デザイナーズやヴィンテージ家具をすっきりと配置する、ミニマルなレイアウトを意識しています。我が家のLDKは縦に長い空間。これまでいろいろ試した結果、今はペットものびのび走り回れる、家具を壁付けするレイアウトに落ち着きました。

アメリカのミッドセンチュリーと比較して、フレンチミッドセンチュリーとはどのような特徴があるのでしょうか。

フランスのミッドセンチュリーは、アメリカとはまた違った独特のモダニズム文化があります。昔のフランス人はアメリカ人に比べると華奢で背が低かったこともあり、線が細く重心の低い家具が一般的。また、色の彩度も全体的に落ち着いていて、ポップさも抑えめなものが多い印象。個人的にはフレンチミッドセンチュリーの方が日本人や日本の住宅に合うのではと思っています。

自宅の中で、特に気に入っている場所はどこですか?

ダイニングスペースです。妻と食事をしたり、リモートで仕事をしたり、ライフスタイルの中で特に大事な場所。キッチンとダイニングは隔てる壁がないので、〈イームズ〉のパーテーションで仕切っています。流線的な動きが出せるのが使いやすいです。

ダイニングテーブルは、〈Cassina〉のLC10。ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンが共同デザインしたものです。ダイニングチェアはダイニングテーブルのデザイナーのひとり、シャルロット・ペリアンがフランスのスキーリゾート「レ・ザルク」の開発に携わったとき、彼が気に入ってセレクトしたと言われる「レザルクチェア」。引っ越す前にたまたま〈トーキョーリサイクル インプション〉に行ったとき、2脚搬入されたばかりのものを発見。このブラックレザーのタイプは個体数が少ないですし、そもそもヴィンテージチェアで2脚揃って見つかること自体あまりないので、これは運命だと思い即決。引っ越してからもリビングダイニングのアイコン的存在です。

ダイニングのペンダントライトも素敵ですね。

これはブラジルのデザイナーであり、写真家のマウリシオ・クラビン氏によってデザインされた「エクリプスフロアランプ」。複数のプラスチックバンドが蛇腹状に組み合わさった独特の構造で、形や傾きを変えることで、光の形や向きを変化させられます。足をつければ置いて使うこともできる優れもの。日本での取り扱いも最近始まりました。

家具探しは、
趣味というより日課

インテリアはどのようなものが好きですか?

基本的には雑食です。アメリカとフランスのミッドセンチュリーから好きになって、その後はポストモダンやイタリア、今はオランダのダッチヴィンテージが気になります。オランダのモダンデザインは、いろんな文化が混じり合って、ユニークな変化を遂げているんです。日本ではまだあまり知られていないジャンルかもしれません。

家具を選ぶ基準を教えてください。

家具はモダンで造形美が感じられるものに惹かれます。安くはない買い物なので、本当に気に入ったものを選ぶことはマストですし、さらに自宅へ置いた状態で高揚感が生まれるかどうかも大事だと思います。

加えて、我が家の場合はペットのミーアキャットに破壊されないかどうかも選ぶ基準のひとつ。ファブリックは基本的に破られたり、シミがついてしまうので我が家の家具はレザーが多め。チェアやテーブルの足はスチールなど、傷がつきにくい素材を選んでいます。どうしても汚れてしまうソファは頻繁に買い替えていて、今はレザーテープを貼りながら騙し騙し使っています(笑)。色は汚されても目立たない黒一択です。

リビングの角に置いているコーナーシェルフも存在感がありますね。

フランスのミッドセンチュリー期を代表するデザインユニット〈Antoine Philippon & Jacqueline Lecoq〉が手がけたものです。中の仕切りは欠損していたのですが、部屋のアクセントに良いなと思い、置くことに。大理石のブックエンドを合わせて楽しんでいます。

家具はどこで購入することが多いですか?

まず、オンラインで各ヴィンテージショップの新着情報をチェックしています。日本国内のヴィンテージショップはすべてブックマークしていて、1日3時間はリサーチしています(笑)。それぐらいしないと、ほしい家具はなかなか手に入らないんですよね。

一方で実店舗に行くこともあって、ダイニングチェアを見つけた〈東京リサイクル〉で掘り出し物を探すこともありますし、清澄白河の〈stoop〉というヴィンテージショップにもよく伺います。

無駄な装飾は無しに、偏愛する名作家具を楽しむことに、とことんこだわった田中遥さんの洗練された住まい。後編では、コレクションしている名作チェアや溺愛しているペットのミーアキャット、夫妻で大好きなファッションアイテムについてなど、田中さんの好きなものとの暮らしを紐解きます。ぜひお楽しみに!

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