東京建物『Brillia』のベースとなる用地仕入れ
東京建物のマンション『Brillia』を建設する、すべての始まりとなるのが土地を買う“用地仕入れ”の仕事。仕入れる土地がどれだけの価値を持つものなのか、適切に見極められる能力が必要で、不動産業界では「花形」ともいわれる、非常に重要なポジションです。今回は、用地仕入れを担当する住宅情報開発部に、一般的にあまり知られていない土地を仕入れるまでの流れや、今あるBrilliaマンションの土地はどのように仕入れられたのか、エピソードも聞いていきます。
見えない努力も惜しまない、
用地仕入れの仕事とは?
土地を仕入れるために、まず何から始めますか?
山地:さまざまなネットワークを駆使して、用地の情報を収集します。用地はひとつとして同じものがないため、良い土地が出ればそのほとんどが争奪戦に。買い手はなんとかして売っていただく立場なのです。土地を持っている地権者様や、不動産仲介会社、法人のお客様を抱える信託銀行などへ足繁く通い、関係性を深めていく。そして、『この人になら任せられる』と信頼してもらい、はじめて売却の可能性がある土地の情報を教えてもらえます。毎年何千もの情報が集まりますが、最終的に土地を取得するまでに至るのはわずか1%ほど。それでも、土地の情報が出たときは、真っ先に自分たちのことを思い出してもらえるように、営業活動を続ける。なかなか泥臭い、足で稼ぐ仕事です。良い土地情報をいち早く入手できるかどうかは、取引先との信頼関係次第といっても過言ではありません。
土地の情報を取得するだけでも、なかなか根気がいりますね。情報を仕入れた後は、どのような流れで進めていくのでしょうか?
磯田:実際に現地へ訪ねて周辺環境を調査し、時には他部署のメンバーと協議をしながらその土地の最適な用途を検討します。決定したら、設計会社と協力して敷地内にどのような建物が建てられるか、商品性を意識しながらプランを作成します。その後、建築費の見積やマーケット調査を行い、どれだけの利益が上げられるかを算出します。結果、土地情報を取得してから早ければ1週間、遅くとも3週間〜1ヶ月ほどで、ようやく土地代が提示できます。最終的に地権者様の合意が得ることができれば土地取得完了です。
山地:用地の仕入れは億単位の金額が動くため、じっくり時間をかけて検討したいところですが、当然良い土地は何十社とほかの不動産業者も狙っている場合が多く、悩んでいる間に他の会社で決まってしまうことも往々にしてあります。また、お断りする場合も早くかつ丁寧に返答しなければ、取引先との信用問題に関わってきます。用地取得は急ぎの決断を迫られる場面が多く、常にプレッシャーとの戦い。普段から同業者同士でマンションの販売状況について情報交換をしたり、建築費の動向を調べたり、金融機関の方から今後の経済情勢等についてヒアリングしたりすることで情報の精度を高め、より円滑に土地取得の意思決定ができるようにしています。
Brilliaの土地を仕入れるまでの
ドラマチックなストーリー
Brillia用地の仕入れにおいて、思い出深いエピソードを教えてください。
Brillia Tower 池袋 West
山地:Brillia Tower 池袋 Westは近年池袋エリアにて開発実績がある、当社を含めた3社による共同事業で、初めて情報を取得してから約2年かけて土地を取得しました。取得した土地上には稼働中のオフィスビルが建っており、まだテナントが入っている状態での引き渡しだったので、新入社員時代に培った経験を活かし、旧所有者様の協力のもと、テナント退去までの期間、テナントとの退去打ち合わせ等のビルの運営管理を自ら担当。また、解体直前には地元の皆様向けに建物を開放し、感謝とお別れを告げる「棟下ろし式」も開催。築40年近いレンガ調の建物で、地元の人に長く愛されてきたシンボリックな場所でした。旧所有者様にもお声がけし建物のプレートや、装飾品などを展示。旧所有者様や参加してくださった地元の方々は、当日展示していた建物の歴史を記した書籍や写真を眺めながらお酒を飲んで思い出話に花を咲かせたり、解体前の壁にビルへのメッセージを書いたり。最後には、地元の住職さんに祈祷を捧げてもらい、みんなで解体を見守りました。棟下ろし式は当社としても初めての試みでしたが、『私たちも必ず良いものを作ろう』という気持ちが高まりました。
Brillia 亀戸
山地:『自分の敷地だけではなく、周辺の土地を巻き込んでの再開発を東京建物に先導してほしい。過去何度か試みたものの実現できず、所有者たちは徐々に高齢化しており、これが最後のチャンスだと思っている』、そう地権者様からの熱い思いをお聞きし、力になりたいと共に走り出したのがBrillia 亀戸。周辺は古い建物が多く、建て替えは防災や街の景観、資産性から見ても必要。ですが、マンションを建設するにしては各々の土地が小さく、さらに権利関係が複雑であったため、誰か旗振り役がいないとなかなか共同での建て替えができない、そんな状況でした。地権者様のご協力のもと、周辺の土地を持つ他の地権者様たちと何度も面談し、各々のご要望をお伺いの上、売買条件をご提示。通常今回のような権利調整の案件については、専門の提携先に依頼するケースが多いのですが、ご依頼いただいた地権者様の熱意に感銘を受け、上司に直談判し私自らで取り組むことに。お話をいただいてから約2年半かけて全5件の地権者様から共同事業への合意をいただきました。建物完成後、等価交換方式(売買代金で完成後の住宅を取得する方式)にて住宅を取得いただいた地権者様から「この案件は君がいなければ出来なかった。まさかこのような形でBrilliaに住めるとは思わなかったよ。ありがとう。」と言葉をかけていただきました。用地取得に携わってきて本当に良かったと思えた瞬間でした。
Brillia 大島 Parkside
中村(グループリーダー):地権者様はもともと工場を営んでいましたが、工場の閉鎖に伴い等価交換方式によるマンションへの建替えを決意。元従業員の方が所有していた隣接地も含めて、事業化を希望されていました。競合他社は奥まっていて活用しづらい隣接地は不要との見解でしたが、当社はうまくプランニングできたため、一体での事業化を提案し事業パートナーに選定。その後、別の隣地所有者様も紹介してもらい、さらに用地を拡大できました。敷地内には、地権者様も思い入れのあった美しい桜の木が植わっていたのですが、プランニングの関係上どうしても伐採しなければならず…。どうにか生かせないかと検討して、マンションの共有ラウンジに伐採した桜の木で作ったオブジェを飾ることに。マンションが完成してオブジェをご覧になった地権者様は、大変喜んでくださいました。
たくさんの人との出会いが、
いい仕事に繋がる
業務内容が幅広く、苦労も多い用地取得の仕事。どんなところにやりがいを感じていますか?
磯田:ゼロからイチを創り出せるところです。デベロッパーの事業は長期にわたるものが多く、様々な部署、関係者が関わって創り上げていきます。用地取得はその根幹部分であり、1担当としてスケールの大きな事業の始まりを感じられるところは特に面白みを感じますね。またこの仕事は人と人との出会いも大きな醍醐味と感じます。取引先の方とはプライベート込みで仲良くさせてもらうことが多く、自分は今年の1月に子供が産まれたのですが、親しくさせてもらっている取引先の方からお祝いをいただいたり、育休中も子育てのアドバイスをしてくださったり。仕事以外のところでも気にかけてくださるのが、本当にうれしかったです。
山地:困難を乗り越えて買わせてもらった土地にBrilliaが建ち、そこにいくつもの明かりが灯り、幸せな生活を送っている方々が存在することは、この上ない幸せです。また、個性的で経験豊富な取引先の方々と日々巡り合うことができるのも大きな楽しみ。もちろん“土地を買う”という醍醐味はあるのですが、それと同じぐらい取引先の皆様から人生勉強をさせてもらっていて。『この人に信頼してもらえるためには、何を頑張ればよいだろうか』と、そこに興味が湧いたり。信頼できる人と一つのものを成し遂げること、それ自体が楽しい仕事だなと思います。尊敬する先輩がよく、「土地を追うな、人を追え」と仰ってましたが、長く用地取得に携わる中で、この言葉の意味が理解できるようになってきました。ちなみにBrillia Tower池袋 Westの土地情報をくださったのは、日頃から師と仰ぐほどお世話になっている仲介会社の方で、出会って5年目にして初めての取引でした。一生忘れることのない案件になりました。
Brilliaを拠点に、
街をブラッシュアップしていきたい。
用地取得の仕事を通して、今後どんなことに挑戦してみたいですか?
磯田:私は昨年の1月に異動してきたばかりで、まだまだ成し遂げられていないことがたくさんあります。ひとつ大きな目標にしているのは、Brillia Tower池袋 Westのような大規模な用地を自らのルートで仕入れること。相当難しいとは思うのですが、達成感が得られる仕事にどんどんチャレンジしていきたいです。そのためにも、権利関係が複雑で他社が手を出さないような土地にもあえてチャレンジするなど、自分の力を養える仕事にも積極的に取り組みたいです。
山地:新たに誕生する建物が、その街や街に住む方々にとって良い変化へのきっかけとなるようなプロジェクトに携わりたいです。そして、より多くの成功体験を会社の若い社員に伝えていきたいです。用地取得は、なかなか結果に結びつきにくい地道な仕事ですが、当社が事業を継続していくためにはなくてはならないはじめの第一歩。東京建物が創立してから120年超、先輩たちが大切に育んできた取引先様との関係性やノウハウがあるからこそ、自分たちも今恵まれた環境で土地取得ができている。その先輩から受け継いだタスキを私たちの代で途切れさせてはならない。Brilliaブランドの更なる発展のためにも、社内の若い人に『こういう仕事がしたい!』と夢を持ってもらうためにも、様々な人達と関係を深め、より良い土地を追い求めていきたいです。
ただ売られている土地を買うのではなく、ここぞという良い土地を探し仕入れてきた、Brilliaの用地取得。今Brilliaマンションがあるのは、紛れもなく汗水流して地道に信頼を築き上げてきた、住宅情報開発部の苦労があったから。次はどの街にBrilliaが建ち、どんな新しい風を吹き込んでくれるのか、楽しみになる取材でした!
Photo : Shinji Serizawa / Text : Runa Kitai