INTERVIEW

リノベーションの着想は『洞窟』から。素材感が活きた、陰影のある住まい(前編)

2年半前、まだ一人暮らしのときに、この築50年の中古マンションの一室を購入し、自らの設計でフルリノベーションを手がけたという建築士の松山敏久さん。広さは50㎡で、間取りは2LDKから抜けのいい1LDKへ改装。少し変わった凸型の間取りで、凸部分の日の当たらない部屋をどう活かすかを考えることから、家全体の設計が始まったといいます。前編では、細部までこだわりの詰まったリノベーションについて、詳しくご紹介します。

日の当たらない暗がりの部屋も、
コンセプト次第で居心地のいい空間へ

今の物件に住み始めた経緯を教えてください。

何百軒と中古物件を見てきた営業担当の同僚に勧められたのがきっかけでした。物件が売りに出ることの少ない代々木上原エリアにしては割安で、マンションの管理状態も良く、広さも十分。人気の物件だろうと踏んで、写真だけを見てすぐに申し込みました。もともとフルリノベーション前提で購入したので、特に住戸内の内装は気にしませんでした。年末に申し込みをして、審査が通ってから2ヵ月で設計を考えて、3月から着工。5月から入居しました。

家全体のリノベーションを考える上で、軸となった空間はありますか?

我が家の間取りは凸型。凸部分の部屋がほぼ日が当たらず、この部屋をどう違和感なく活かせるかというのが、一番のミッションでした。どうすれば暗い部屋を居心地のいい空間にできるか。そう考えたときにイメージしたのが、以前旅したイタリアの『マテーラの洞窟』。マテーラは、渓谷の斜面の岩肌を掘って造られた洞窟住居が、何層にも重なって渓谷を埋め尽くしている街。その洞窟の内部で感じた、土に囲まれた暗くて居心地のいい感覚を、まさにこの部屋であれば再現できるのでは、と思ったのです。寝室は寝るための空間で、光は最小限でいい。イメージとしてはぴったりでした。壁や天井は、粒度の荒い左官仕上げ。ベッドで横になって天井を見上げると、本当に洞窟にいるように心が落ち着きます。

部屋を広く見せるためのリノベーションアイディア

50㎡の住まいとは思えないほど、開放感がありますね。部屋を広く見せるためにどのような工夫をしていますか?

視界が抜けるような奥行きのある空間作りをすることは意識しました。住宅は、寝室を隠すことが一般的ですが、あえて見せる寝室としてLDKと一体化させています。キッチンリビングで12畳、寝室まで含めると20畳ほどあります。寝室とリビングの間には、8尺にもおよぶ大きなスギ材の引き戸を取り付けて、開閉もできるように工夫しました。この引き戸は工場で作ることのできない大きなサイズだったので、職人さんに現場で一から作っていただきました。幅の異なる3つの板材を組み合わせています。フシのある材は嫌われがちなのですが、あえて取り入れることで、コンクリートや左官のクールな印象に温かみをプラスしています。

あとは、天井が高く感じられるように、ひと段階低い天井をあえて作っています。この物件はスケルトンの状態で、天井高が2,350mm。リビングの一部には2,100mmの天高を作っています。そうすることで、視覚的に広く見せることができる上に、天井を伝う配管を目隠しできて、間接照明も上手く取り付けることができました。寝室も洞窟っぽい、こもったイメージにしたかったので、天井高2,100mmで設計しています。

収納に関して、工夫していることはありますか?

我が家の備え付けの収納は必要最低限。収納量はあるに越したことはないですが、コンパクトな物件だと生活空間をなるべく広く取りたいですよね。持ち物は最小限に抑えつつ、思い出の詰まったアルバムなど、捨てたくないけど日々使わないものはトランクルームサービスを利用して、生活の質が下がらないように割り切って預けています。備え付けの収納を作るときは、なぜこの場所に収納を作るのか、どんなものをどのぐらいの量収納するのか、それをしっかり考えることが、生活空間の広さを確保することにつながると思います。

光を抑えた空間は、豊かな素材使いで心地よく

松山さん宅には、一般的な住宅でよく用いられている白い壁や天井がないですね。

リビングはたっぷり日の入る、寝室とは対照的な空間。個人的に、真っ白で明るい空間よりは陰影の豊かな空間が好きなこともあって、この家では暗いのが当たり前という感覚が持てるように、光を反射する白い壁や天井はあえて使いませんでした。マンションの築50年の痕跡もどこかで残したいと思って、リビングの壁と天井の一部には打ちっぱなしのコンクリート壁を。ただ残すのではなくて、デザインの一部になるように、象徴的な見せ方ができればいいなと思い、このような残し方をしています。

また、我が家の壁や天井のベースは、珪藻土を用いた左官仕上げで施工。砂利の粒度を空間によって使い分けています。寝るだけの寝室は壁に触れることもないので、目の荒い1分、LDKは中ぐらいの7厘、廊下は特に肌を擦る可能性があるので、より目が細かい5厘の砂利を混ぜて仕上げてもらいました。

寝室奥の縞模様の壁は、1分、7厘、5厘の左官材を組み合わせたもの。寝室の奥に、パッと目を引く場所を作ることで、視覚的に奥行きを持たせました。天井の間接照明と、奈良の照明メーカー〈NEW LIGHT POTTERY〉のブラケットライトが心地のいい陰影を生み出してくれています。

今回左官を依頼したのは、80代のベテラン左官職人さん。『家全体に統一感を持たせながら、さりげなく雰囲気を変えたい』。そんな私の要望を見事に汲み取っていただきました。家作りには、職人さんの技術があってこそできることがたくさんあります。今回のリノベーションを通して、職人さんへのリスペクトはより一層深まりました。

インテリアはどのようなものが好きですか? 気に入っている家具も教えてください。

インテリアは、時と素材感を感じられるものが好きです。お気に入りの家具は、北欧のヴィンテージ家具を扱う〈HIKE〉で購入したハンス J. ウェグナーのソファ。生地選びから始まり、納品まである程度の時間を要したので、完成がとても楽しみでした。ベッドになる仕様で非常に居心地がいいので、よく寝落ちしています(笑)。家具を選ぶときは、作り手のこだわりが感じられるかどうか、美しく空間にマッチするかなどを基準にしています。

リビングの窓際は床の素材が切り替わっていて、縁側のようですね。

玉砂利洗い出しの床材を敷いています。テレビ台を部屋の端まで伸ばせない設計上、床の材を切り替えることで中途半端な空間が生まれないように工夫しました。床を切り替えることで、それに見合った用途も見出せるだろうと思って。今後は植物を置けるスペースとして活用できたらいいなと思っています。

※本ページ掲載のお部屋は、SEARCHページでご紹介している物件ではありません。